2021.10.04
コラム

会陰ヘルニアの診断と治療

会陰ヘルニアの診断と治療

こんにちは、福島中央どうぶつクリニックです。
今回は会陰ヘルニアという病気についてお話ししていこうと思います。
先日当院で実施した両側会陰ヘルニアのわんちゃんに対しては、①両側のポリプロピレンメッシュでの整復、②結腸固定術、③去勢手術、という内容の手術を実施しました。

会陰ヘルニアとは

会陰ヘルニアとは、会陰部(肛門の横の領域)の複数の筋肉の萎縮により、筋肉間を通して腹腔/骨盤腔内の臓器が皮下に脱出してしまうことで排便困難を中心とした様々な症状を起こす病気です。

原因について

原因としては複数の可能性が示されていますが、雄性ホルモン(アンドロゲン)の関与がかなり強く疑われており、ホルモンが骨盤隔壁(会陰部の筋肉群が形成する筋肉の壁)を萎縮させてしまうと言われています。そのため、中齢以降の未去勢の雄犬に多い傾向にあります。しかし、原因としては複合要因のこともあり、腹圧が上昇するような腹腔内腫瘤や妊娠、慢性の呼吸器疾患(咳による腹圧上昇)などが関与していることもあり、稀ですが雌犬や猫での発生も見られます。

症状について

会陰ヘルニアの症状として共通しているのが、会陰部の膨らみとなります。それ以外は、ヘルニア内部に脱出する臓器により、脱出する代表的な臓器には憩室化して蛇行した大腸・膀胱・小腸・子宮・前立腺などがあります。もっとも多い症状が憩室化した大腸による便秘であり、大半の症例が便秘を伴っています。膀胱が脱出した場合は、尿が出づらいという症状が出ることが多く、ひどい場合は尿道閉塞により排尿ができなくなってしまいます。ヘルニア内容が前立腺の場合は尿道の湾曲のために尿が出ずらいという症状が出やすいですが、小腸や子宮の場合は症状は出にくい印象です。非常に稀ですが、繰り返しの摘便により脆弱になった直腸が穿孔してしまうと敗血症などの非常に重篤な状況となってしまうこともあります。

診断について

診断は直腸検査などの身体検査やエコーなどの画像診断で行います。

身体検査

視診と触診により会陰部の膨らみと内容物の大きさや硬さを確認します。また、直腸検査では指を肛門から直腸へ挿入して触診を実施しますが、直腸の憩室や蛇行・滞便の有無に加え、直腸越しに骨盤隔壁の筋肉の萎縮についても確認していきます。

画像診断

レントゲンやエコーを用いてヘルニア内に脱出している臓器の特定をしていきます。

治療について

治療法には内科治療と外科治療があり、内科治療は主に便秘に対する緩和治療となります。

内科治療

ラクツロースなどの便軟化剤やサイリウムなどの食物繊維を用いて便を出しやすくします。それでも、便が溜まってくる場合は用手で便を掻き出します。
膀胱などは会陰部を穏やかに圧迫することで一時的に骨盤内に押し戻すことができる場合もあります。

外科治療

会陰ヘルニアの手術法には様々な方法があります。ヘルニアには両側/片側/重傷度/基礎疾患の有無など様々な要因が関連しており非常に多様な病態であるため、再発を極力低減するために様々な方法が開発されてきました。また、手術法にはヘルニア自体を整復するメインの方法と、再発を更に抑えるためにメインの手術に併用するサブの方法があり、ヘルニアの状況に合わせて手術法を決定していきます。

メインの方法

内閉鎖筋フラップ:内閉鎖筋という骨盤表面を覆う筋肉を一部剥離してヘルニア輪を閉鎖する方法です。
浅臀筋フラップ:浅臀筋という臀部の筋肉を転移してヘルニアを整復する方法です。
半膜様筋フラップ:大腿部尾側の筋肉を使用して方法です。
総漿膜を利用した方法:精巣を包む総漿膜という強靭な膜を使用する方法です。
ヘルニア輪の縫縮:ヘルニア輪となる肛門挙筋・尾骨筋・外肛門括約筋・内閉鎖筋を縫合糸で縫合する方法です。
ポリプロピレンメッシュを利用した円錐状メッシュ法:円錐状に形成した医療用のメッシュを挿入・縫合する方法です。

サブの方法

a. 去勢手術:雄性ホルモンによる骨盤隔壁の萎縮を抑制します。
b. 結腸固定術:開腹手術で結腸(大腸)を頭側に牽引して腹壁に固定します。術後の直腸脱の予防目的だけでなく、直腸の蛇行と憩室化を抑えて円滑な排便をもたらしてくれる効果もあります。
c. 膀胱固定術:ヘルニア内に膀胱が入っている場合に適用し、腹壁に膀胱を固定する方法です。
d. 前立腺固定術:ヘルニア内に前立腺が入っている場合に適用し、腹壁に前立腺を固定する方法です。

 

まとめ

会陰ヘルニアは比較的多い病気ですが、症状は便秘から緊急性の高い排尿困難まで多岐に渡ります。また、治療は会陰ヘルニアの程度や基礎疾患などによって決定すべきですので、気になる方はお近くの動物病院にご相談ください。