2022.12.06
症例紹介

【直腸腺癌と直腸プルスルー術】

【直腸腺癌と直腸プルスルー術】

こんにちは、福島中央どうぶつクリニックです。
ここのところCT装置の導入や診療業務でホームページの更新が滞っていましたので、久し振りに当院での治療症例を報告いたします。
報告いたしますのは、直腸腺癌という悪性腫瘍の症例であり、再発・転移の非常に多い治療の難しい疾患です。従って、手術と術後の併用療法で再発・転移の遅延や生存期間の延長を図っていく腫瘍となります。
※本文の中で手術時の写真を掲載しますので、閲覧の際はご留意いただきますようお願いします。

症例情報と症状

●症例:11歳齢、雄犬(未去勢)
●基礎疾患:以前から心雑音を指摘されており、心臓薬を内服
●症状:3ヶ月前から血便・頻回泥状便を呈しており、近医での直腸検査により直腸内の1cm大の腫瘤を触知された。近医での治療は難しいとのことで当院をセカンドオピニオンのために受診。

初診日の検査とその所見

初診日の所見は以下の通り。
●身体検査:左胸壁心尖部付近を最強点とする心雑音(Levine 3/6)
●血液検査:著変なし
●エコー検査:直腸壁に2cm大の腫瘤確認、MMVD(ACVIM・Stage B1)
●胸部レントゲン:肺転移所見なし
●直腸検査:直腸(肛門から2cm近位、12時方向)に3cm大の腫瘤を触知
後日、内視鏡下生検と病理組織検査を実施することを決定。

内視鏡検査、切開生検、病理組織検査

全身麻酔下で検査を実施。
●内視鏡検査:肛門より2−5cmの範囲に、直腸内腔に突出する腫瘤確認
●切開生検:腫瘤が比較的校門より近い部位であったため、指で腫瘤を体外に牽引し切開生検実施
●病理診断:上皮性悪性腫瘍(特に腺癌-印環細胞癌)を疑う
上記の結果を受け、飼い主様と相談の上、手術の実施を決定。

手術(直腸粘膜-粘膜下プルスルー術)

ローンスターリトラクターで肛門を拡張し、支持糸により直腸を反転。肛門付近の5mmの粘膜上皮を残して全周性に粘膜を切開し、腫瘤を含む粘膜と一部の粘膜下層を剥離し7cm長を切除。肛門側の残存している粘膜と近位の切断端粘膜を合成吸収糸で縫合して終了。摘出した腫瘤は再度病理組織検査に提出。

術後の病理診断

直腸腺癌(亜型:印環細胞癌)であり、マージンはクリーンだが脈管浸潤あり(今後の転移の可能性あり)

術後の経過

手術早期から血便は消失。泥状便は1週間継続したが、その後に消失。術後10日目の時点で頻回便は継続しているが、今後排便回数の減少が十分期待できる。

今後の治療方針

直腸腺癌は、化学療法(抗がん剤)への反応が悪い腫瘍であるが、分子標的薬や非ステロイド系消炎鎮痛剤(ピロキシカムなど)による術後併用療法で生存期間の延長が期待できるとの文献もあるため、これらの薬剤投与により再発・転移の遅延と生存期間の延長を図る予定である。