2021.07.08
コラム

【前十字靭帯断裂の診断と治療】

【前十字靭帯断裂の診断と治療】

こんにちは、福島中央どうぶつクリニックです。
先月大型犬のワンちゃんの前十字靭帯断裂に対する手術を当院で実施しましたので、今回は前十字靭帯断裂に関して記述してみたいと思います。

前十字靭帯断裂とは

前十字靭帯靱とは膝関節内にあり、下腿部の骨(脛骨)の前方変位/内旋を制御している靭帯です。人では、スポーツ選手などが競技中に膝を捻った際に損傷することがあり、動物でも運動中に損傷することがあります。ただし、動物、特に大型犬の場合は、加齢により靭帯に変性が起きて脆弱になっていことが根本にあるケースが大半です。また、小型犬においても見られ、膝蓋骨内方脱臼に伴って発生することもあります。この前十字靭帯断裂ですが、実は比較的多い疾患なのです。

症状について

症状は、後肢の跛行(びっこ)や挙上となります。また、お座りの際に足先を外側に向けて座るようになるなどの症状も見られることがあります。これらの症状が運動後やジャンプした後から見られる様になることもあります。一般的な捻挫や膝蓋骨内包脱臼のみの場合に比べ、内科治療への反応が悪く症状が長引く傾向があります。また、靭帯断裂に内側半月板損傷を併発することもあり、その場合クリック音が聴取されることがあり、内科治療への反応が更に悪くなる傾向にあります。

診断について

診断は視診・触診・整形外科学的検査・レントゲンなどで行なっていきます。

視診・触診

後肢端を外側に向けるような左右不対称な座り方(Sit Test)や膝関節の内側の軟部組織、特に関節包の肥厚(Medial Buttress)が見られることがあります。

整形外科学的検査

脛骨圧迫試験前方引き出し試験にて診断していきます。脛骨圧迫試験とは、足根関節を屈曲した時に脛骨が前方に移動しようとすることを利用した試験であり、靭帯が断裂している場合に脛骨が前方に変位します。前方引き出し試験とは、用手にて直接脛骨に前方への力をかけて変位するかを見る試験です。部分断裂の場合はこれらの試験が陽性率が低下し、診断がより難しくなります。

レントゲン検査

この検査では、⑴脛骨の前方変位、⑵fat pad sign、⑶膝関節の骨棘形成、などを検出していきます。脛骨圧迫によるストレス像により⑴が検出しやすくなるケースもあります。

その他

専門の施設では、超音波検査や関節鏡による診断も実施されています。

 

治療について

前十字靭帯断裂の治療は、内科治療と外科治療に分かれます。

内科治療

鎮痛剤やサプリメント、安静などが該当します。前十字靭帯断裂の場合は内科治療の反応が悪い傾向があります。

外科治療

内科治療に反応の悪い場合、大型犬で他の関節も含め関節炎の進行が予想されるケース、また歩様改善により良好な生活の質(QOL)を求める場合などに手術が選択されます。手術は、⑴TPLO(脛骨高平部水平化骨切術)、⑵TTA(脛骨粗面前進化術)、⑶CBLO(CORA Based Leveling Osteotomy)、⑷関節包外制動術、が主に選択されます。現時点では、⑴の術後の満足度が最も高いと言われています。

 

まとめ

前十字靭帯断裂には、部分断裂と完全断裂があり、実は内科治療に反応の悪い跛行の原因として意外と多い原因となります。治療しているにも関わらず症状が軽減しない場合には整形外科的検査などにより詳細に検査する必要があります。